ホルムズ海峡は「オマーン側」から逃げられないのか?~海の車線問題~
- HP管理人
- 5 日前
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連日ニュースで報じられる「ホルムズ海峡の封鎖」
ニュースを見ながらこんな疑問を持ったことはありませんか?
「そもそも、みんなの海を勝手に封鎖していいの?」
「イランが危ないなら、オマーンの海だけを通って逃げればいいのでは?」
実は、そこにはニュースではあまり語られない、海運の「物理的な限界」と「ルール」が存在します。
今回は、山口物流の視点から、ホルムズ海峡封鎖を紐解きます。
余談ですが、私が学生の時は『レインボーブリッジ封鎖出来ません!』というセリフがある映画がありました。
ドラマが大ヒットしたら何本も映画になる時代でした。
1. 「海を勝手に封鎖する」なんて許されるの?

海の世界には「国連海洋法条約(海の憲法)」という世界共通のルールがあります。
沿岸から約22km(12海里)までは、その国の主権が及ぶ「領海」とされています。
しかし、世界の海運にとって重要な通り道である国際海峡では、たとえ他国の領海であっても、すべての船が平和的に通り抜ける権利(通過通航権)が条約で保障されています。
主な国際海峡 ・ホルムズ海峡
・マラッカ海峡 ・スエズ、パナマ運河
・ドーバー海峡 etc
平時において沿岸国が「ここを通るな」と一方的に海峡を封鎖することは、国際法違反となります。
2. 核心への問い:幅33kmなら「オマーン側」を通ればいいのでは?

ホルムズ海峡は、一番狭いところで幅が約33kmしかありません。
北側のイラン、南側のオマーンの両岸からそれぞれ22kmずつ領海が伸びているため、真ん中に「誰のものでもない海(公海)」の隙間は1ミリもありません。
そこで誰もが抱くのが
「イランの領海に入らず、オマーンの領海の端っこに沿ってこっそり通り抜ければいいのではないか?」
3. 船は「決められた車線:TSS」しか走れない

実は、巨大な船が海峡を行き交う際、どこでも自由に走れるわけではありません。
海上の大事故を防ぐため、ホルムズ海峡には国際ルールで定められた「上り線・下り線」からなる分離通航帯(海の車線)が設定されています。
そして、この車線は真っ直ぐではありません。海底の地形などの都合上、海峡を抜ける前後でイランの領海に複雑に入り込むルートになっているのです。
最狭部(海峡の出口):TSSはオマーン領海内を通る
ペルシャ湾内に入ると:TSSはイランの領海内に入る
4. 検証:巨大タンカーは「オマーン領海のみ」で抜けられるのか?

「ならば、ルール(車線)を無視してでも、オマーン側の岸沿いギリギリを走ればイラン領海を避けられるのでは?」
この可能性を検証してみましょう。
結論から言うと、物理的にも法的にも不可能です。
巨大船の深さ(喫水)の壁
中東から原油を運ぶ巨大タンカーは、長さ300m以上。荷物を満載すると、海面下に20メートル以上(ビル7階分に相当)も船体が沈み込みます。
そのため、少しでも水深が浅い海を走れば、座礁事故のリスクがあります。
岸沿いは「小型船専用」
オマーン側の岸近くにも水深が深いエリアは一部存在しますが、国際的な海事ルールでこの沿岸エリアは「地元の小型船専用」と厳格に定められており、巨大タンカーの進入は許されていません。
海峡を抜けた後の「ペルシャ湾内の罠」
最大の難関は海峡を抜けた直後にあります。安全な水深を求めてペルシャ湾(サウジアラビアなどの積み地)へ向かおうとすると、そのルート上にはイランが実効支配している島々が立ち塞がります。
実は、ここがホルムズ海峡最大の「罠」。 オマーンの海を抜けてペルシャ湾(UAEの沖合)に入り、安全な深い海を通ろうとすると、そのルートのど真ん中に以下の3つの島が立ち塞がります。
アブムサ島
大トンブ島
小トンブ島
これらの島は、UAEが「自国の領土だ」と主張しているものの、現在はイランが軍事占領(実効支配)しています。 イランはこの3つの島を「不沈空母(沈まない軍艦)」のように要塞化し、ミサイルや革命防衛隊の高速艇を大量に配備しています。
「ここはUAEの海!」と主張してすり抜けようとしても、イラン軍の目の前(射程圏内)を通過させられることになります。
つまり、「安全な水深があり」「ルール違反にならず」「イランの海域(実行支配含む)を1ミリも通らない」という都合のいいルートは存在しないのです。
5. 法の壁と「封鎖」の真の姿
条約上は「決められた車線を走る限り、イランの領海であっても自由に通行できる」はずです。しかし、実はイランはこの国連海洋法条約を正式に批准(同意)していません。
(イランは1982年にUNCLOSに署名しましたが、批准はしていません。米軍艦艇の「無害通航権」に反対しているためとされています。)
そのため、「自国に敵対する船は通さない」という主張しています。
先の国際条約は”平時”という枠があります。
お伝えした通り、国際法上は「通過通航権」があるため封鎖は認められませんが、
現在は「戦争状態(武力紛争)」を理由にイランが強行している形です。
イランの主張
「自国が攻撃を受けたため、安全保障上の措置として海域を管理している」
国際社会G7(日本を含む)や国連の反応
「国際法違反であり、航行の自由を侵害している」として、即時開放を求める共同声明
仮にオマーン側の海域にいたとしても、幅33kmの海峡は対艦ミサイルなどの射程圏内です。イランによる威嚇や攻撃のリスクが高まると、国際的な保険機関が海峡全体を「戦争ハイリスクエリア」に指定します。
船体や積み荷、そして何より大切な船員の命に保険がかけられなくなれば運航が困難になります。
*私が外航船員時代は海賊手当(恐らく正式名称ではない)があり、とある海域に入ると1日おいくらというお金がもらえました。
私は遭遇した事はありませんが、スピードボードにロケラン、マシンガンよろしくの装備で襲われる海域。今思うと平気で過ごしていた当時が信じられません。
物理的な壁がなくても、「車線と水深の縛り」、「保険の停止」によって実務的に運航が困難になること。これこそが、現在の「ホルムズ海峡封鎖」の姿です。
おわりに
私たちが普段何気なく手にしている商品は、「海上の自由な航行(国際法)」や「目に見えない海のルール」という薄氷の上に成り立っています。
こうした激動の国際情勢や複雑なサプライチェーンの制約の中でも、状況を分析し、お客様の元へ確実にお荷物を届けるための最適な物流ソリューションを常に追求してまいります。 *今回はホルムズ海峡封鎖についての考察してみました。
当初の予定ではこの封鎖により、大量の貨物が道中で打ち切られるEnd of voyageとその影響について考察する予定でしたが、お客様とお話する中で
そもそも封鎖ってなに?そんなの気軽にしていいの? と聞かれる事が多かったので封鎖について考察をしてみました。
お客様との会話でいい気付きをいただいています。
DX、AIだとカタカナが多い時代ですが、人間の生身でないと出せない価値が大切だと感じる今日この頃です。
(執筆:山口物流 小坂)
